膵臓そのものが原因で発せられる症状に悩んでおられる方(例えば、このHome Pageに訴え続けておられるノアさんのように)は「膵負荷状態」の中でも負荷の程度の強い方ですから、「膵負荷状態」から解放される為には相当な努力・慎重さ・根気強さそして周囲の理解が必要と言えます。
ノアさんの過去の投稿内容を見てみましたが、内科的な取り組みだけで現状からの脱却が可能と小生は考えます。
ノアさんからの情報の中から得られた問題解決のヒントは、①45歳を超えた年齢②男性③ストレスの強い職種④E-USでの早期慢性膵炎像⑤血中リパーゼ高値の既往(現在は正常化)⑥禁酒後⑦体重減少⑦連日のエレンタール服用(飲用)⑧敏感な心?等ですが、これらの要素が絡み合って今の症状につながっているものと判断出来ます。しかし失礼ながら、ご本人が現在の膵臓の状態を十分理解・把握されておられないことが“混乱”の本質のような気が致します。
一般的に、40歳前後から膵臓の働きの弱さが実感されるようになりますが、若い頃から体力を過信したまま無理を重ねていたり(男性に多い)、体力の衰えを自覚しにくくする飲酒習慣や薬の服用を続けていたり、消化能力低下の大きな要素となる過大なストレスや多忙かつ孤独を強いられる日常であったり、根本的な性格等が病像に影響を与えている筈です。
ノアさんの場合、アルコールから遠ざかった後でも体重減少が持続し・血中リパーゼが低値を示している今の状況は、膵臓の働きが弱くなっている証拠ですが、元々の弱い膵臓に戻っているだけで、膵臓の働きが廃絶している訳ではないと解釈されます。E-USで「早期慢性膵炎像」と診断されていることは、当然、“膵臓の腫れ”(「膵負荷状態」)がまだ残っていることが推定されますし、“腫れ”が痛みにつながって行くのは当然でしょう。また、“膵臓の腫れ”は食べ過ぎが続いていることを反映していますし、十分、お腹の安静が図られていないことの証明とも言えます。
以前の小生の投稿でも述べておりますが、多くの膵炎患者を診ておられる専門の先生方と「膵負荷状態」を意識し・こだわっている小生との“膵臓の腫れ”の解釈が異なるのは当然です。働きが低下している方の膵臓は、身体を守る為に僅かな刺激に対しても敏感に“反応”を示します。従って、血中リパーゼ高値を示すほどの負荷でなくても、強い自覚症状(膵臓そのもののの本丸の症状)を引き起こしがちになります(但し、尿中アミラーゼ値には“変動”が見られている筈です)。そして、消化不良が続けば体重減少等の栄養不良状態を招き、これを効率良く・早期に解消しようとして様々な対策がなされます。しかし、弱く・敏感になっている消化能力を逆なでするような治療行為は「膵負荷状態」を更に悪化しかねません。ここに大きな“落とし穴”があります。事実、ノアさんが受けておられるエレンタール治療は連日600カロリー(即ち、1日600㏄の水分負荷)の補給が経口的になされている訳ですから、弱っている膵臓にとっては更に厳しさが増すことになりますし、この他にも様々な経口的な治療を受けておられる状況では弱くなっている膵臓の“悲鳴”につながるのは当然と言えます。
現状打破に対し有益かつ必要と思われる対策であっても、お腹(膵臓)の刺激につながる内容であれば期待された効果は発揮されにくくなりますし、むしろ、悪影響を及ぼしかねません。
先日、インフルエンザで来られた患者さんは、発熱時に喉の渇きを自覚した為(このサインは消化能力低下を示唆しますが、必ずしも身体全体が脱水状態に陥っている訳ではありません)アイスクリームを摂った後症状が更に悪くなったと訴えておられました。体力・消化能力の低下している時(お腹は敏感になっています)の経口摂取には細心の注意が必要ですし、これを怠ると強烈なしっぺ返しが起こることも良く知っておくべきです(インフルエンザ脳症や熱中症はこの典型です)。
どうしても必要な治療であるならば、お腹(膵臓)を刺激しない形を採るべきです。
水分補給であれば温めた形で少量ずつであるとか、経口剤であれば小割けにしたり、食後の服用であっても少量のお湯や唾液のみでの服用に留めておいたり、OD錠や顆粒状の剤型に変更するとか、輸液による投与に切り換える等の細かな対応が必要となります。
問題解決に向けての基本は、○膵臓が完全に休まっているかどうか(「膵負荷状態」)の把握○最適な治療法の選択○膵負荷を増す治療になってはいないかどうかの確認○消化能力回復に向けての“努力”○確実な“現状把握”等ですが、「今の膵臓の弱さが根本的な消化能力である」ことを素直に受け入れることから“修正作業”が始まります。
医師の力を借りなくても済む部分はご自分で確実にこなして行くべきでしょう。
大切なポイントは、十分にお腹が休まり・余裕があるか否かを確認/把握することであり、これを怠ると中途半端な形での治療に終始し、期待されたほどの治療効果が得られないというジレンマに陥りやすくなります。そして、消化能力を回復させ・余裕を持たせる為には、○適度な運動○上手な気持ちの切り替え/割り切り○限界を超えぬ規則正しい生活振り○消化能力低下原因の把握(小生のHome Pageも役立つかもしれません)○周囲の方々の理解/協力等が絶対に必要です。
「膵負荷状態」か否かの把握は、○体温○便通○腹満の状況○むくみの有無○頭痛や眩暈・咳やかぜ症状・アレルギー症状(これらもむくみに起因するかもしれません)○気持ちの変化(お腹がいっぱいだと頭にも余裕がなくなります)○その他の注意信号的なサイン(個々で異なります)等ですが、膵臓そのものから発せられる本丸の症状が見られた場合は、暫くは(数日の単位ではありません)油断せず細かく監視して行く必要があります。
また、病像をぼやけさせるアルコールや薬にも注意が必要なことは当然です。
先日来られた膵炎症状で悩んでおられた女性は、当院での対応により「膵負荷状態」から脱却しつつありますが、今まで喧嘩ばかりしていた夫婦関係が最近は円滑になり、ご自身も、周囲の身体の弱った方たちに対する“気遣い”が変わったと言っておられました。
膵臓は単なる病気だけでなく、その個人やそこと関わりを持つ方々の生活にも“変化”を与えます。特にノアさんのように典型的な「うるさい母親」のような膵臓を持つ方たちは、大変な状況が続くことも多いかもしれません。しかし、こんな時こそ「膵臓」は愛情を持って接し、難局を克服するのを見届けるまで付き添ってくれている筈です。そして、それぞれの方たちの“真価”が問われるのもこのような状況と言えるのです。
魅力的な「膵臓」を無視することなく、上手に付き合って行かれることを期待します。